「親が認知症になってきた。実家の名義をどうしよう」
「施設に入ることになったけど、空いた実家を売りたい。でも親本人はもう判断ができない……勝手に売っていいの?」
結論から言うと、親が認知症で判断能力を失うと、家の名義変更や売却は原則としてできなくなります。そして、家族が勝手に手続きを進めることもできません。

わたしはケアマネジャー(介護支援専門員)として10年働いています。担当していたご家庭でも、まさにこの「実家をどうするか」の相談を受けたことがあります。
ひとり暮らしのお母さまが少しずつ認知症が進み、娘さんがキーパーソンとして介護保険サービスを使いながら支えていました。ですが、だんだんひとり暮らしが難しくなり、施設へ入所、最終的に特別養護老人ホーム(特養)へ入ることになりました。
娘さんはすでにご自分の持ち家がありました。そこで「空いてしまった実家を、これからどうすればいいんでしょう。処分も考えたいけれど……」というご相談を受けたのです。
このときわたしは、成年後見人も引き受けられる司法書士さんにおつなぎしました。そして、その後の流れもきちんとご説明できるように、自分でも制度を調べ、勉強しました。この記事は、そのとき学んだことを、同じ悩みを持つ方に向けてまとめたものです。

法律の最終判断は専門家の領域です。この記事は「全体の流れをやさしく知る」ためのもの。具体的な手続きは、必ず司法書士・弁護士・地域包括支援センターに確認してくださいね。
親が認知症になると、家の名義変更・売却は原則できなくなる

なぜ?「意思能力」がないと契約ができないから
家を売る、名義を変える、贈与する——これらはすべて「契約(法律行為)」です。契約をするには、その内容を理解して自分で判断する力(意思能力)が必要だとされています。
認知症が進んで判断能力を失うと、この意思能力がないとみなされ、本人は契約ができなくなります。たとえ家族が「本人のため」と思っても、本人に代わって勝手に売買や名義変更をすることはできません。
名義変更・売却・預金まで止まる「資産凍結」
この状態は、よく「資産凍結」と呼ばれます。
本人名義の不動産は売れない・名義を変えられない。本人名義の預金も、金融機関が認知症を把握すると引き出しが制限されることがあります。「家を売ったお金で施設費用を払おう」と思っていても、その家が動かせない——これが、認知症と不動産でいちばん多いつまずきです。

「年金、貯金で足りない分は家を売って施設代に」と思ってたのに、その家が動かせない……ってパターンが多いっす🐾
家族が勝手に売ると「無効」に——罰則はある?
「認知症の親の家を勝手に売ったら罰則があるの?」とよく検索されています。
正確に言うと、「認知症の親の家を売ったら即逮捕」というような直接の刑罰があるわけではありません。ただし、判断能力のない本人が結んだ契約は無効になるとされ、家族が本人になりすましたり、書類を偽造して手続きを進めれば、私文書偽造などの別の問題につながるおそれがあります。
つまり「罰則」を心配するより、そもそも勝手にやっても無効になってトラブルになると考えるのが現実的です。正しい手順を踏むことが、結局いちばんの近道になります。
認知症に「なった後」の方法は、成年後見制度
すでに判断能力を失っている場合、家を正式に売却・名義変更するための方法は、基本的に成年後見制度(法定後見)を使うことになります。
わたしが担当したご家庭でも、この制度に詳しく、後見人も引き受けられる司法書士さんにおつなぎしました。
法定後見の流れと費用の目安
大まかな流れはこうです。
- 家庭裁判所に後見開始の申し立てをする
- 必要に応じて本人の判断能力を調べる(医師の診断・鑑定)
- 家庭裁判所が成年後見人を選ぶ(家族・司法書士・弁護士など)
- 後見人が本人の財産管理を行う(家の売却もここで対応)
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 申し立て費用(印紙・郵券など) | 1万円前後 |
| 医師の鑑定費用(必要な場合) | 数万円〜10万円程度 |
| 専門職後見人への報酬(継続) | 月2万円〜(財産額により変動) |
費用は家庭裁判所や事案によって変わります。正確な金額は、申し立て先の家庭裁判所や司法書士に確認してください。
後見人がついても、自由に売れるわけではない
ここは見落とされがちな大事なポイントです。後見人がついても、本人が住んでいた家(居住用不動産)を売る場合は、家庭裁判所の許可が必要だとされています。
これは、本人の生活の基盤を勝手に処分されないよう守るための仕組みです。「後見人をつけた=すぐ自由に売れる」ではなく、ひと手続き挟むことになります。
知っておきたいデメリット
- 専門職が後見人になると、報酬が本人が亡くなるまで継続して発生する
- 家族が後見人を希望しても、家庭裁判所の判断で専門職が選ばれることがある
- 後見人は本人の利益のために動くため、「家族の都合」だけでは財産を動かせない
デメリットもありますが、認知症が進んでしまった後では、これが財産を正式に動かせる現実的な方法になります。
認知症に「なる前」にできる対策【これから備える人へ】

もし親御さんの判断能力がまだしっかりしているなら、選べる対策が広がります。「うちはまだ大丈夫」と思っているうちが、いちばん動きやすいタイミングです。
| 対策 | どんな方法か |
|---|---|
| 家族信託 | 元気なうちに、財産の管理を信頼できる家族に任せる契約。柔軟に売却・管理ができる |
| 任意後見 | あらかじめ「将来この人に後見を頼む」と本人が決めておく制度 |
| 生前贈与・早めの売却 | 判断能力があるうちに、名義を整理したり処分しておく |
どれもメリット・デメリット、税金面の注意があります。家族信託や任意後見は専門的なので、司法書士や弁護士に相談しながら進めるのが安心です。

「もう少し早ければ、選択肢があったのに」とならないように、必要そうなご家族には、考えるきっかけができるよう、相談の時にやんわりお伝えするように心がけています。
ケアマネとして伝えたい、まず相談すべき窓口
「実家をどうしよう」と悩んだとき、いきなり全部を抱え込まなくて大丈夫です。順番に相談先を頼っていきましょう。
- 地域包括支援センター……介護や成年後見の入口。まずここに相談すると、適切な専門家につないでくれます
- 司法書士・弁護士……成年後見、家族信託、名義変更などの法律手続き
- 不動産会社・買取業者……実際に家を売る・査定する段階
なお、自宅を老後資金として活用する「リバースモーゲージ」「リースバック」という選択肢もありますが、田舎の古い家は担保評価が低く対象外になることも多いです。仕組みとリスクを事前に確認しておきましょう。👉 リバースモーゲージとリースバックの違いは?田舎の家だと使えないことがある理由
わたしが担当したご家庭でも、まず司法書士さんにつなぎ、そのうえで実家をどう処分するかを一緒に考えていきました。
施設に入って空き家になった実家は、放っておくと固定資産税や管理の負担が続きます。後見の手続きと並行して、「売るならどこに相談するか」も早めに考えておくと、いざ売れる状態になったときスムーズです。
田舎の家は買い手が少なく、すぐには売れないことも多いです。「いくらで売れそうか」を知るだけでも、今後の判断がぐっと楽になります。仲介で売れにくい家や、訳ありの物件は、買取に相談するのも選択肢のひとつです。
\ 売れにくい・困った実家、まず相談だけでも /
よくある質問【Q&A】
Q. 認知症の親の家を、子どもが勝手に売ることはできますか?
できません。本人に判断能力がない状態の契約は無効とされ、家族でも代理権がなければ売却できません。正式に売るには成年後見制度を利用するのが基本です。
Q. 勝手に売ると罰則がありますか?
「売ったら即罰金・逮捕」という直接の罰則があるわけではありませんが、契約が無効になったり、書類の偽造などをすれば別の罪に問われるおそれがあります。手順を踏むのが安全です。
Q. 成年後見人をつければ、すぐに家を売れますか?
本人が住んでいた居住用不動産を売る場合は、家庭裁判所の許可が必要だとされています。後見人がついても、ワンクッション手続きが入ると考えておきましょう。
Q. 後見人の費用はいつまでかかりますか?
専門職が後見人になった場合、報酬は原則として本人が亡くなるまで継続して発生します。家の売却が終わっても、それで終わりではない点に注意が必要です。
Q. 認知症になる前なら、どんな対策がありますか?
家族信託・任意後見・生前贈与・早めの売却などがあります。判断能力があるうちにしか選べない方法も多いので、早めに専門家へ相談するのがおすすめです。
まとめ——「まだ大丈夫」のうちに、ひと声かけておこう
- 認知症で判断能力を失うと、家の名義変更・売却は原則できなくなる
- 家族が勝手に売っても無効になり、かえってトラブルになる
- なった後の方法は成年後見制度。ただし居住用不動産の売却には家裁の許可が必要
- なる前なら、家族信託・任意後見・生前贈与など選択肢が広い
- まずは地域包括支援センターや司法書士に相談を。売却は早めに見通しを立てておく
ケアマネとして何度も感じたのは、「もう少し早く備えていれば、後に悩むこともなかったのに…」という場面の多さです。介護の方針だけでなく、資産や相続の方針も、親が元気なうちに家族で話しておくことで、いざというときの負担は大きく変わります。

「そのうち話そう」より「元気な今、ちょっとずつ話そう」っす🐾
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